戦士と語る Vol 16

元東洋太平洋バンタム級チャンピオン
Text By 新田 渉世
Photo By 山口 裕朗
元日本フェザー級1位 高橋孝治


 オレもボクシング界には、ホントに親しい友達ってあんまりいないんだよなあ・・・

そんな帝拳ジムのプリンス、元・東洋太平洋Sバンタム級チャンピオン葛西裕一が、「こいつなら」と紹介してくれた男―。
沖縄の宮古島出身。甲南高校時代、インターハイ決勝で松本好司を破って優勝。名門帝拳ジムにスカウトされ、元・世界Jライト級王者ヘナロ・エルナンデスをスパーリングで本気にさせた男―。


こんちわ。
皆さん、暑い日が続いていますが、夏バテしてませんか?
ついに我が家もエアコンを購入いたしました。ボクはあんまりエアコン好きじゃないんですけど、来客のことを考えるとやはり我慢させるのは申し訳ない。というわけでとても涼しくなった我が家です。よかったら遊びに来てください。


 今月の“戦士”は元・帝拳ジムの高橋孝治さん。

「ボクシングはあまり好きじゃないんです。」

 お父さんが元プロボクサーという家庭に生まれ、物心ついた時にはフットワークとシャドーボクシングをしていた―。ボクシングの中で育ってきた男の口からは、そんな意外な言葉が発せられました。
 スーツに身を包み、不動産関係の会社に勤務。待ち合わせのファーストフード店にスッと入ってきた姿は、土地転がしの危険なオジサン?! 8歳年上の妻・典子さんとの間にはもうすぐ2歳になる一斗(いっと)君がいる。ボクシングから離れて8年。特にボクシングに関わることもなく、試合をテレビで見ることも無く・・・

 今回は葛西氏にも同席してもらい、都内の居酒屋で楽しいひとときを過ごすことが出来ました。

 葛西氏と高橋氏は高校のアマチュア時代からの知り合いでした。

「高橋はアマチュア時代から強くて有名だった。フックがめちゃくちゃ強かった。フックの強い選手は普通ストレートが打てないけど、こいつはまっすぐもすごかった。」

 葛西氏のボクシング人生で、“強い”と感じたのは、松本好司と高橋孝治の2人だけというからその評価の高さが分かります。

高橋氏は、‘93年の日本フェザー級タイトル戦で、王者松本好司にTKOでインターハイ決勝の借りを返されたのを最後にグローブを置きました。

「ボクは、あまり練習しなかった。やっぱりあまり好きじゃなかったんですね、ボクシング・・・」

これまでも「ボクシングは好きじゃない」という元ボクサーには何人か会ってきました。彼らに共通していることは、不本意なボクシング人生だったり、何か心にキズがあったりといった“影”。しかし高橋孝治にはそういった“影”はまったく感じられませんでした。

「ただ子供の頃から親父に嫌々やらされてきた。プロになってもマンネリの練習が嫌だった。それだけの話です。もうちょっと真面目にやってればいい結果もでたんでしょうけどね。ハハハ―。」

少し強面(こわもて)の不動産業者は、生ビール2杯目くらいから笑顔のかわいいオジサンに変身。いろいろ語ってくれました。


 葛西氏を始め、高橋孝治と同期のボクサーは多い。鬼塚勝也、辰吉丈一郎両氏といった元世界王者の他、渡久地隆人氏、「戦士と語る」に登場してくれた川島郭志、星野敬太郎、松本好司各氏など豪華メンバーが目白押し。皆アマチュア時代からの知り合いで、大会などを通じて顔を合わすこともしばしば。お互いに刺激を受け合い、レベルの高いライバルとしてそれぞれが活躍した年代と言えます。

 正直言って羨ましい感じがしました。ボクシングでも人生でも、そういうライバルに恵まれるのは幸せなことだと思います。

「辰吉はアマチュアの時からやっぱり目立って強かった。左ジャブで相手をすっとばしてた。竹原はいい人間。世界チャンピオンになってからも、ちゃんと礼儀をわきまえて接してくる。松本とはスパーリングをしたけど、ほんとに強かった。インターハイ決勝で同じ九州地区だった渡久地は、準決勝で鬼塚を圧倒した川島との決戦にすごいびびってた。鬼塚はほんとにストイック。普段はディスコ好きだけど試合の1ヵ月前からは修行僧みたいだった。」

 と、ボクシングは好きじゃないと言いつつ、いろんな話をしてくれました。

プロになってから、ほとんどやる気は失せていた高橋孝治ですが、

「葛西がいたからオレも頑張んなきゃと思って、日本タイトルまで出来たと思ってるんですよ。」
 と、ふたりの関係はとっても×××。

「もっと努力すればよかったんだろうけど、努力も才能だと思うんですよね。」

ボクシングに対して非常に自然体で接している男だなあと思いました。人生に対しても同様の印象です。肩に力が入ってないっていうか、もう少し親しくなったら“適当なヤツ”って呼んでしまいそうな(あ、言っちゃった)・・・。

後日、用事で電話した際、電話口で一斗君がぐずっているので何事かと尋ねると、

「こいつ今、電話が好きで好きでしようがないんですよ。触りたくてぐずってるんです。すいません。」

一斗君を強く叱るふうでもなく、困った顔が電話越しに見えてくるんです。この強面の不動産業者とは、たまに飲みたいなあと思いました。

酔いの回ってきたフォトグラファー山口クンの「ボクシングをやってきて後悔はありますか?」という質問に、

「昔は嫌々やっていたけど、今では親父に感謝してます。今ある人間関係もボクシングをやっていたお陰ですから。―今、現役に戻ったとしたら? 今度は一生懸命やるんじゃないかな・・・」

2回目で少し打ち解けてきた葛西氏が、となりでニヤニヤしながら強面のオジサンの話を聞いていました。




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